
真心一座身も心も・・・ "座長"村岡希美、"座付き作家"千葉雅子、"座付き演出家"河原雅彦、"にぎやかし"坂田聡の4名。
「馬鹿を看板にここまで来ました」
粋な男が、賭場でさいころを振る。
谷村寛(坂田聡)が姐御を相手に大勝負を挑んでいた。ところがイカサマだと
騒がれて、斬った張ったの大騒ぎに。「イカサマなんかじゃない!ちがうんだ、ねえさん!」と叫んだところで夢から目を覚ます谷村。

ほんとうは北の女囚刑務所。
女囚達に囲まれて居眠りをはやし立てられる看守の谷村。

この物語は、谷村が見る夢で幕が開く。
刑務所の休憩室。
喧嘩が耐えない殺伐とした刑務所の雰囲気とはちがって、所内がどこかのんびりと和やかなのには理由があった。
模範囚、根上かつこ(村岡希美)の存在だった。谷村もひそかに思いを寄せ、かつこの傷害致死事件も真実は別にあるのではと睨んでいた。
そんなある日、かつこが獄中で出産した子供の里親・田川(信川清順)が面会にやってくる。かつこが再会を喜ぶのもつかの間、田川は誓約書をつきつける。
養子にもらった子が、陵辱の果ての子であるという真実を絶対に他に漏らさない事と絶縁を誓うものだった。なぜ、真実を隠していたと詰る田川に、かつこは「今ではあの陵辱が合意のうえにも思えるし、事件にもなっていない事だから」と顔を曇らす。

篤志家で人のいい田川に、嫌な想いをさせたと胸を痛めるかつこだった。
一方沖縄の離島。
小さな港に島の若者、宮平(小林顕作)と比嘉(伊達暁)がMG闘牛舎と書かれた看板を手に人を待っていた。島の闘牛家、新垣名人(政岡泰志)と話し込んでいるとマリンバスが着く。ひっそりと降りてきたのはかつこの姉、根上たつこ(千葉雅子)だった。

牛の面倒をみるヘルパーとして九州から流れてきたたつこ。宮平達の歓迎ムードとうらはらに、ニコリともせず闘牛舎へと行ってしまうのだった。
かつこの出所の日がやってきた。
所長室で別れを惜しまれるかつこは、保護監察司末次優二(河原雅彦)と対面し、指導を受けることに。再出発の地、東京をめざすことになる。

表門で谷村がかつこに待ってくれと声をかける。
音信不通の姉、たつこの居場所がわかりそうだと告白する谷村。さらに、かつこが起こした傷害致死事件は、実は姉たつこが起こしたものではないのかと詰め寄る。身代わりに6年も服役する人があるものかと、否定するかつこだったが、譲らない谷村は真相をつかみ、二人を引き合わすためにひとり旅立つ。

かつこは姉、たつこを思いながら佇む。
そこへ花束を持った男が現れた。
歌川英明(粟根まこと)。
かつて、かつこを陵辱した男。
かつこを抱きしめる歌川。しばらく話をさせてくれと言うのだった。

かつこの回想、7年くらい前のこと。
医者をめざす苦学生だった頃のかつこ。
とある高原にあるゴルフ場で、かつこはキャディさんのアルバイトをしていた。
そこで心を閉ざし、ひとり孤立しながらも働く歌川と出会う。
ある夏祭りの夜、女性に総スカンを食らうように露悪的に振る舞う歌川を放っておけないかつこは、湖のほとりに呼び出す。ところが、歌川にかまわないでくれと突き放される。孤独な歌川に姉の姿を重ね見るかつこは、食い下がった。
女をまったく信用しない歌川は、やさしく振る舞うかつこに業を煮やす。きれいごとを言ったところで、女ってものの本性は醜いものだと吐き捨てる。そして、その本性を今明かしてやると言い、小舟に乗せられてしまう。
とうとう歌川が力任せにかつこを押し倒した。
湖に浮かぶ小舟。陵辱されるかつこ。

その晩の出来事で、子供が生まれていたなんてと声を詰まらせる歌川。
あの頃、タチの悪い男と一緒に出て行ってしまった母親を憎み、女性を嫌うことでしか自分を保つことができなかったのだと告白する。
子供に会わせてほしいと頭を下げる歌川。里親との誓約書でそれはかなわないと答えるかつこ。
逆にあのときできた子供を我が子と思うなら、お願いがあると言うかつこ。
「愛してる」とひとこと言ってほしいと懇願する。
歌川はすぐにはできないと正直に答える。
「そこがいいのよ」とかつこ。
かつこは待っていると答え、二人はまた会おうと別れた。

沖縄では。
まるでかつての歌川のように壁をつくって闘牛舎で暮らすたつこがいた。

気のいい宮平達に囲まれて、それでも平穏な生活が続いていた。
そこへたつこの後を追って、旅行者を装った谷村が現れる。
かつこが服役した刑務所の看守であったことを隠し、とけ込む谷村。
たつこの動向をさぐる。
そんなある日黒牛を本島から連れて、五十嵐正道(松重豊)がMG闘牛舎にやってくる。負傷した宮平達の牛を治し、連れてきた五十嵐はもぐりの獣医だと言う。

穏やかな笑顔にどこか哀愁を帯びた五十嵐。
たつこは平静を装いながらも、どこか胸が騒ぐのだった。
海が荒れ、足止めを喰っている五十嵐。
たんたんと仕事を続けるたつこ。
なぜかたつこの家事を手伝う谷村。
比嘉は時折ふらりとどこかに出掛け、宮平は三線をつまびくそんな毎日が続く。
ある日のこと。それぞれがどこかに行ってしまい、ひとり茶の間に寝転ぶ五十嵐。
ちゃぶ台には谷村の財布が置いてある。
五十嵐はなんのためらいもなく、財布から札を二枚抜く。
五十嵐には、なにかにあきらめているような風情があった。
ふらりと牛のメイヤー号が庭に現れた時、鬱陶しい梅雨の空気を突き破る騒ぎが起きる。
宮平が年増を引っ張り込んでよろしくやっていると、まわりに噂されていると聞き、たつこが隣の新垣を引っ張ってくる。

噂について抗議するたつこ。新垣は思いあまって、宮平と比嘉がひとりの女でこじれている事を明かす。たつこは根深い男達の痴情のもつれに呆れ果て、闘牛舎を破壊し始める。そこへ、宮平の元嫁明子(信川)があらわれ、こじれた関係をはっきりさせ精算した。
事はうまく収まったと思いきや、谷村が財布の金がないと騒ぎだす。
たつこが冗談で「あんたの財布、パチってやる」と言っていたため、嫌疑がかかる。があっさり五十嵐が「俺がさっき借りた」と明かす。
誰もなにも言えない。
谷村の財布から身分証明書が落ちる。
拾うたつこ。
みるみる顔が紅潮する。
ほかでもない、かつこが服役していた刑務所の証明書だったからだ。
たつこはかつこによって差し向けられたと理解し、だましていた谷村に猛然と詰め寄る。
「突いてやる!谷村!!」

メイヤー号にまたがり、谷村めがけて突進するたつこ。
逃げ惑う一同。
五十嵐がゆっくり立ち上がり、荒ぶる牛の首を押さえ込む。

「やりすぎだよ。惚れるぞこのやろう」
五十嵐がたつこを見据える。
メイヤー号から降りるしかないたつこだった。
その頃かつこは新大久保にいた。
末次とこれからについて話すかつこ。

表向きはマッサージだが、不法就労者相手の新大久保の診療所で再出発をはかるかつこ。
末次のはからいはアウトローの匂いがした。
そこへ、谷村からたつこが闘牛舎を出たと連絡が入る。
東京にやってくるのかもしれないと、複雑な胸の内を末次に明かすかつこだった。
さらに最果ての離島。
小さなモーテルの一室にたつこと五十嵐は居た。

闘牛舎を出て行くところもないたつこは五十嵐に、日本のはしっこを見届けるのだとうそぶく。
勝手にたつこに着いて来た五十嵐。常に週刊誌を手放さない五十嵐をたつこが
からかうと、五十嵐は、かつて自分が週刊誌に載ったことがあるので、つい手にしてしまうと言う。五十嵐の過去を思うたつこ。
二人は一時、台湾が見える小さな部屋で、深く心を通わすのだった。

東京のそば屋。
五十嵐の強い勧めがあったのか、東京にかつこは出てくる。
そば屋でつゆをかけられて服を乾かすたつこ。もくもくと五十嵐とそばを食べる。

かつこの診療所はすぐ近く。
会いに行くのをためらうたつこ。
五十嵐が素直に会いに行けばいいと言う。そこへ店主が現れる。
診療所の根上かつこさんと知り合いなら、渡してほしいものがあると言う。
小さなメモ用紙を渡した店主はあの歌川だった。
お腹の大きなおかみさんと二人でそば屋をきりもりしているようす。
五十嵐がメモを受け取った。

サウナの一室。
女性客が憩う休憩室で、行くべきか迷うたつこと風呂上がりのかつこがばったり出会う。
まさかの再会だった。

新大久保の診療所。
谷村が沖縄みやげを手にかつこのもとへ。
たつこを連れて来れなかった事を詫び、そして沖縄での顛末をかつこに話す。
かつこは五十嵐の存在が、たつこの幸せに繋がればいいと心から願う。
旅の疲れからを別室で休む谷村。
そこへ手を怪我した五十嵐とたつこがふらりとやってくる。
かつこの手当をうける五十嵐。

自ら負傷してまで、たつこを診療所に差し向けようとした五十嵐の思いやりに、かつこは胸が熱くなる。
飲み物を買いに出るたつこ。
かつこに五十嵐は過去を打ち明ける。
エリート官僚としてアメリカに赴任していた時、理不尽な理由で家族をすべて失っていたのだった。
そして五十嵐は、歌川にまねてメモ書きをかつこに託しひとり立ち去る。

かつこの「姉じゃだめですか?」の懇願に「俺がだめなんだ」と言い残して。
入れ替わりに大けがをしたチンピラと一緒にたつこが駆け込んでくる。
ヤクザ同士のイザコザに巻き込まれる二人。

五十嵐の姿が見えない。たつこは五十嵐が去って行ったとわかる。かつこから渡されたメモに目を通す。
立ち尽くすたつこ。
追ってきたヤクザがかつこに凄む。連れ去られる大けがのチンピラ。
残ったヤクザの笹川(伊達)に鈍器を振り上げたのはたつこ。

そのままかつこの制止もはねのけて、たつこは殴り続ける。

たつこは自分を止めるかつこをなじる。
まるで、あの時と同じだと。
かつて、二人が母親からひどい虐待を受けていた時、思いあまって逆襲したあの時と同じであると。
たつこが恐ろしい母親の息の根を止めようとした時、かつこがたつこの手を制止したのだった。
姉妹にはそんな暗い過去があった。
騒ぎを聞きつけ駆けつけた谷村が見たのは、たつこから取り上げた鈍器を握りしめ立ち尽くすかつこ。その足下に息絶えた笹川。そして離れてたつこ。
「警察だぁ!」と駆け出す谷村。
たつこはかつこに歌川のメモを渡す。
かつこは読んでほしいと言う。
「愛してる」と読むたつこ。
「なんだ、五十嵐さんと一緒だ」とかつこが答える。
「見たの!」と声を荒げるたつこ。
「ひっかけたの」と答えるかつこ。
二人は一瞬微笑み合い、そして再び互いに背中を向けて歩み出した。
遠くサイレンの音を聞きながら。

(写真:引地信彦 ゲネプロ時の写真)